豊原国周の画業としての、浮世絵、挿絵、団扇絵など描かれた作品を捜しだし、時系列に並べ、作品の数などを調べた。その結果1852年のデビューから1870年までを初期とした。
豊原国周の活動と評価に関しては、すでに小島鳥水(1)、井上和雄(2)、菅原真弓(3,4,5,6,22), Amy Newland(53,54)の著書があるが、膨大な作品が残されている割にはまだ見過ごされている作品も多い上に、浮世絵師として評価が低い。それは、多くの研究者や評価者は、彼以前の著名な浮世絵師菱川師宣、鈴木春信、歌川広重、東洲斎写楽、喜多川歌麿などに匹敵する浮世絵を国周の作品の中に探し求めてその結果をまとめた物であり、断片的だったからだ。すなわち、これまでは国周の作品の中に評価者の抱く芸術として確立された浮世絵の範疇に入る作品が存在するのか否かと言った評価の方法であった。
国周が絵師として活躍し、残し、保管された作品は草双紙などの挿絵、団扇絵、浮世絵の3分野である。これらをすべて網羅して絵師としての活躍を調べることで、国周の創作活動と変遷が理解できると考えた。また、どのような芸術家であっても、初期の創作活動の中に、基本的な作風、思想が萌芽されていると考えられる事から初期の作品を調べる事で、国周の特徴を捉えてみようと考えた。
資料に関しては、分野毎に次のようなデータベースを活用した。
- 挿絵と古文書関係
人気のあった本は、版元や出版社を変えたり、表題を変えて後年に再発行されたり、年月経て明治時代に製本されたりしているケースがある。後年に再発行された物は初期の物に比して表紙などがなくなっている場合があるので、できるだけ初期の出版物を捜した。ここでは、本の序文に描かれた年月、最終ページの発行情報や、本文中の枠外に捺印された検閲印の形式から挿絵が描かれた年次を決定した。この検閲印様式に関しては、石井研堂著「錦絵の改印の考証」等(7)(8)を参考にした。
挿絵関係はインターネット上の浮世絵文献資料館(2005年9月11日開設 編集 制作・加藤 好夫)のHP(https://www.ne.jp/asahi/kato/yoshio/index.html)等を参考にした。それぞれの作品詳細は国会図書館デジタル、早稲田大学、立命館大学、その他の美術館、全国の市立図書館などが公開している古文書を検索し画像で確認したデータをここでは論じた。また公開されていない本などの資料は保有機関を訪問して調べた。利用したデータベースは以下の通り。
国書データベース https://kokusho.nijl.ac.jp
近代書誌・近代画像データベース 近代書誌・近代画像データベース (nijl.ac.jp)
古典籍総合データベース(早稲田大学) 古典籍総合データベース (waseda.ac.jp)
早稲田大学演劇博物館 演劇情報総合データベース enpaku 早稲田大学演劇博物館 | デジタルアーカイブ (waseda.jp)
ARC古典籍ポータルデータベース ARC古典籍ポータルデータベース – ジャパンサーチ (jpsearch.go.jp)
国立国会図書館デジタルコレクション 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)
大英博物館所蔵 日本古典籍閲覧システム https://www.dh-jac.net/db1/books/search_bm.php
挿絵に関して調べると、合巻本、草双紙、赤本、切附本、袋入本などと本の形態や対象読者などで分類されているが、国周が描いたイラストや絵を時系列的に調べる目的なので、これらの分類には拘らず草双紙として扱う。また、江戸時代の出版物を明治になって製本したと思われる資料も有り初版を捜さないと表紙裏の絵など詳細が不明な場合が多い。「半丁に絵を描いた」という記載などもあるので、簡単に述べると、草双紙は5丁を1冊としていて、その数冊で1編の物語ができてる。さらに数編をまとめて合綴し、錦絵で飾った本が合巻だ。1丁は紙一枚で、二つ折りして綴じ込んでいるので、半丁は現代の1頁に相当する。発行年は序文に大抵記載されているが、絵を描いて検閲を受けてから発行まで数年かかっている場合もあるので、挿絵が描かれたのは発行年月日よりも当然前になる。挿絵がいつ描かれたのかは、幸い本文中の上の空白欄に浮世絵と同じ様式で、検閲印が押されているので、描かれた年を判定できる。
- 団扇絵
国会図書館デジタルで検索した結果、団扇絵関係の画像データは団扇絵を収集した本として3冊あったが、国周の団扇絵画像が出てくるのは2冊だった。断片的にはJOHNの浮世絵検索(後述)では20作品ほど見つかるが、国立国会図書館に保管されている団扇絵のアルバムの様にまとまった物でデジタル公開されている物はなかった。まだ公開されていない団扇絵が他にあるかもしれない。団扇絵が描かれた年は、洲濱印にて確認したが、その検閲印の様式は浮世絵の検閲印様式を参考にした。
- やくしゃにがほ絵団扇画 (国立国会図書館 請求記号 237-376)
やくしやにがほ絵団扇画 – 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)
- 俳優団扇画 (国立国会図書館 請求記号 237-377)
俳優団扇画 – 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)
- 団扇画 (国立国会図書館 請求記号 特56-37)
[団扇画] – 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)
- 浮世絵関係
「浮世絵検索」 https://ja.ukiyo-e.org/
Johnの浮世絵検索は、世界中の美術館などに保管されている浮世絵が検索できるので、主にこの検索を用いた。浮世絵の詳細に関しては、それぞれの浮世絵保存機関のデータベースを直接検索して画像、検閲印などを確認した。すなわち、詳細を調べるのに使用したデータベースは、早稲田大学演劇博物館、早稲田大学図書館、東京都立図書館、ARCポータルサイト(立命館大学のデータベース)、国立国会図書館デジタル、ボストン美術館、大英博物館などである。また総合的な存在確認などは浮世絵検索でもチェックした。それぞれの美術館、博物館で年代を特定して発表して居るが、特に重要な初期の作品は検閲印を確認した上で年次ごとにまとめた。さらに、役者名が記載されている場合は活躍年次を確認して整理した。
また、浮世絵作品の版元、彫師に関しては、日本浮世絵協会編 原色浮世絵大百科事典 第三巻」 大修館 1982年 の「彫師と摺師」(9)、「浮世絵版画の版元」(10)の項を参照した。歌舞伎役者の名跡名乗り期間はARC浮世絵ポータルデータベースの「文化人・芸能人 人物名データベース」を使用した。
国周の絵師としての活躍時期の調査
各浮世絵師の残された作品総数を調べて見ると、豊国、国周などの浮世絵の枚数は膨大な数にのぼった。幾つもの美術館などでそれぞれ保有されている浮世絵の総計は、当時の発行枚数や人気と相関があると考えられる。早稲田大学演劇博物館、東京都立図書館、ARCポータルデータベース(立命館大学)での浮世絵保有枚数を調べると、トップは国貞&三代目豊国で27,115枚、二番目は広重(2代目も含む)で11,052枚、三番目は豊原国周で10,010枚、四番目は国芳で4,095枚だった。この数字を見ると、現代では、大量生産した低級絵師の一人と評され国周の評価は低いが、往時、国周の役者絵などの浮世絵では我々が考える以上にかなりの高い人気と評価を博していたと思われる。
そこで、国周の一生を通じて描かれた浮世絵で、現在保管されている枚数を年毎に「浮世絵検索」を用いて調べてた。海外の組織にある浮世絵が国内にはないなど、国内の組織が保有する浮世絵と海外の組織が保有する浮世絵が異なることが多いので、浮世絵検索は全体を見ることが出来る。しかし、作品の作成年代に関しては、海外のボストン美術館など特定の組織はしっかりした判断をしているが、検閲印に関する干支の判断など誤りがある作品もある。それでも、そのような誤りを含めても大まかな傾向はつかめた。ここには示さないが、早稲田大学演劇博物館、ARCポータルサイト(立命館大学)のデータだけで作成したグラフと浮世絵検索で作成したグラフを比較すると、パターンとピークは一致した。
国周が描いた浮世絵の保管枚数 浮世絵検索によるデータ
この図を見ると、1862年頃の作品から保管枚数(人気)が増え、1867年に1000作品以上という膨大な数を残す人気絵師となった。その後減少していったが、亡くなる1900年までほぼ安定して作品が生み出されていた。このことから、初期作品として1870年までの作品を調査対象とした。
草双紙、団扇絵、浮世絵などは、下記の組織からインターネットを通じてデータを入手した。また、訪問して画像を入手した。全ての国周の作品は、現在パブリックドメインとなっているが、これまで保管管理されてきたこと、インターネット上で自由に閲覧させてくれた事に感謝する。
早稲田大学演劇博物館 早稲田大学図書館 東京都立図書館 ARC ポータルサイト(立命館大学) 国立国会図書館 専修大学図書館 福井県立図書館 野田市立図書館 ボストン美術館 大英博物館 ウィスコンシン大学マディソン校 国立音楽大学 東京国立博物館 京都芸術大学芸術館 東京芸大 東京都中野区立歴史民俗資料館 Japan Art Open Database Fine Art Museum of SanFrancisco 国書データベースを通じてデータを公開してくれた組織
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